
2026年4月に開校を迎える愛知県立愛知総合工科高校附属中学校(愛称:愛総中)に新しく作られた創宙(そうちゅう)ホールにて、3月10日、「心のエンジンを駆動させるプログラム」と題して、パネルディスカッションと音楽アーティストによる生ライブを開催しました。一般財団法人三菱みらい育成財団助成事業のご支援をいただき開催したこのプログラム。宇宙開発の最前線を走るプロジェクトマネージャーと、自らの表現を追求し続ける音楽アーティストをお招きして、一見異なる分野の両者が、対話を通じて、夢へと向かう本校高校生と教職員の背中を押す場を生みだしました。
今回は、パネリスト3名それぞれの言葉に焦点を当て、愛総中が大切にする「自律・自主・好奇心」が、それぞれのご経験の中でどのように体現されていたかを詳しくお伝えします
1 本物と出会い、「好奇心」の種を見つける


愛総中の学びの核となるのは、「好奇心(知りたい・やってみたいと思うこと)」です。今回のプログラムでは、三菱重工業株式会社で次期基幹ロケット「H3」の開発・運用を率いるプロジェクトマネージャーの佐藤晃浩氏と、地元・愛知県出身のピアノロックバンド「Qaijff(クアイフ)」の内田旭彦氏、森彩乃氏が登壇しました。
ロケットエンジニアとミュージシャン。一見、対極にあるような職業ですが、自らの「好き」を突き詰め、未知の領域を切り拓いてきたという点が共通しています。こうした第一線で活躍する「本物」との対話は、生徒たちが自分の内側にあるワクワクする気持ち、すなわち「好きの種」を見つけるための強力な刺激となります。本校が大切にする「科学技術」や「ものづくり」を通じた探究学習は、まさにこうした本物への好奇心からスタートするのです。
2 佐藤晃浩氏: 「自分との契約」が生む、確実性への執念

佐藤晃浩氏は、国産ロケット「H-IIA」「H-IIB」の設計・開発を経て、現在は「H3」の全体設計を率いる、まさに日本の宇宙開発のキーマンです。佐藤氏は、ロケット打ち上げという「一発勝負」の過酷な世界を、単なるものづくりではなく「人工衛星を約束した精度で届ける輸送サービス」と定義しています。
打ち上げのタイミングは、気象条件や衛星の軌道によって「1日でたった1秒」しかない場合もあります。その瞬間に向けて、佐藤氏は凄まじい執念を持って「確実性」を追求してきました。特に、打ち上げ失敗という大きな挫折を経験した際、佐藤氏を支えたのは「自分との契約」という考え方でした。
「自分が叶えたい目標と自分は契約をしているんだ。過去の自分を否定しないためにも、その契約(約束)をちゃんと守らなきゃいけない」
佐藤氏は、原因究明のために「毎日寝る前に頭の中でデータを整理し、初夢もそれだった」というほど思考を巡らせたと言います。そこにあるのは、誰かに言われたからやるのではなく、自ら定めた目標に対して誠実であり続ける、プロフェッショナルとしての強烈な「自律」の姿でした。
3 内田旭彦氏: 失敗を「成功へのプロセス」に変える圧倒的な熱量

Qaijffのリーダーである内田旭彦氏は、名古屋グランパスの公式サポートソングを10年以上手がけるなど、音楽を通じて多くの人々の心を動かしてきました。内田氏の人生は、自らの決断で道を切り拓いてきた「自主」の精神に溢れています。
かつては名古屋グランパスのユースチームに所属する有望なサッカー選手でしたが、高校2年生の時、自ら退団を決め、音楽の道へと転換しました。この「自分で決める」という経験が、彼の揺るぎない軸となっています。
「自分の中には失敗という結果はあまりなくて、仮に失敗したとしても、それは後に成功するための必要なプロセスだったって毎回思っている」
内田氏は、1つの楽曲を完成させるために30パターンもの音源を作るなど、圧倒的な熱量を持って制作に臨みます。
「圧倒的に人より違う熱量とかエネルギーがあれば、なんとかなるんじゃないかな、人生は」
「圧倒的であること」が夢を叶える確率を高め、不確実な未来において自分を助けてくれる武器になると、迷いなく語る姿が印象的でした。
4 森彩乃氏: 「ワクワク」の感性を見つめ、人生を豊かに彩る

ボーカル・ピアノを担当する森彩乃氏は、自らの心の動きを大切にし、表現し続けることで人生を豊かにしてきました。4歳からクラシックピアノを弾き続けている森氏ですが、学生時代にロックの衝撃を受け、自ら曲を作り歌う道を選びました。
順調にキャリアを積む一方で、好きなはずの音楽が苦しくなり、自分の在り方に迷う時期もあったと言います。しかし、2023年に大病を経験したことで、「人生は何が起こるか分からない」と実感しました。改めて自分の「ワクワク」を再発見して、一つ一つの選択を悔いなく、自分がこれを選ぶんだっていうものを選び取ってほしい、そして自分自身もそのようにいきたいと語りました。
「好きだと思ってたことでも、やっぱりうまくいかないことがある。そんな時に、でも自分はこういうことをするとワクワクできるんだ、という自分の『好き』っていう気持ちをちゃんと見つめることが大事」
森氏は、失敗や不安が押し寄せた時こそ、自分を客観的に見つめ、「これをやった先に誰かが喜んでくれる」というポジティブなイメージを膨らませることの重要性を伝えました。自らの感性を研ぎ澄ませ、何に心が動くのかを知ること。それは、愛総中が育もうとしている「人生を豊かにする力」そのものでした。
5 生徒からの問いに向き合う——「失敗」と「両立」をめぐる対話

今回のプログラムでは、登壇者からの一方的な講話だけでなく、参加した生徒から率直な質問が投げかけられました。そこには、これから進路を考えていく中学生・高校生、そして保護者の方々にとっても、非常に身近で切実な悩みが込められていました。
――模試を受けるとき、失敗したらどうしようと考えてしまいます。失敗を怖がらずに挑戦するには、どんなマインドが必要でしょうか。(理工科2年生Aさん)
進学を目指す中で、模試やテストの結果に一喜一憂し、「失敗したらどうしよう」という不安にとらわれてしまう。これは多くの生徒、そして保護者が共感する悩みです。
この問いに対し、佐藤氏はまず、「失敗したくないと思う感情は、決して悪いものではない」と語りました。ロケット開発の最前線に立つプロジェクトマネージャーである佐藤氏自身も、「失敗したいと思ったことは一度もない」と断言します。むしろ、失敗を避けたいからこそ、徹底的に考え抜き、準備を重ねるのだといいます。その上で佐藤氏は、次のような視点を示しました。
「失敗した後のことばかり考えるのではなく、成功した後のことを少しでもイメージしてみてほしい。合格したら何をしたいか、その先にどんな自分がいるかを思い描くと、気持ちのバランスが取れてくる」
内田氏もまた、「自分の中には失敗という結果はあまりない」と語ったように、仮に周囲から見て失敗に見える出来事があったとしても、それは「後に成功するために必要なプロセスだった」と捉えてきたことを、森氏は、心配や不安を感じている自分に気づいたときこそ、一歩引いて自分を客観視し、「うまくいった先の姿」を意識的に思い描くことの大切さを伝えました。
このやり取りから浮かび上がるのは、「失敗を無理に消そうとしなくていい」というメッセージです。不安を感じる自分を否定せず、その上で視線を少し未来に向ける。その姿勢こそが、挑戦を支える心の土台になるのだと、登壇者たちは等身大の言葉で語ってくれました。
――勉強と、趣味として続けている音楽の両立に悩んでいます。皆さんは学生時代、どうやってバランスを取っていましたか。(理工科2年生Bさん)
もう一つの質問は、「両立」という、こちらも誰もが直面するテーマでした。学業を大切にしながら、好きなことも続けたい。その思いに対し、登壇者たちはそれぞれの実体験を交えて答えました。
内田氏は、自身が高校・大学時代、そして社会人になってからも、仕事と音楽を並行して続けてきた経験を語りました。会社員として働きながら、深夜までスタジオで練習を重ねる生活を続けた日々は決して楽ではありませんでしたが、「がんばれる時期に、がんばれるだけやった経験が、今の自分を支えている」と振り返ります。
一方、森氏は、大学でクラシックピアノを学びながらバンド活動にも取り組んでいた当時を振り返り、「自分の中で最低限守るラインを決めていた」と語りました。学業を投げ出すのではなく、「ここまではきちんとやる」と決めた上で、それ以外の時間を自分の情熱に注ぐ。その線引きがあったからこそ、両立が可能だったといいます。
佐藤氏は、この話を受けて、次のような視点を加えました。
「一つのことだけだと、人は案外持たない。勉強の合間に別のことをやるからこそ、バランスが取れることもある。今の皆さんの年代なら、二つに挑戦することは十分にできる」
勉強か、趣味か、どちらかを選ばなければならない。そう思い込みがちな中で、「両方あっていい」「自分なりのバランスを探していい」というメッセージは、参加者全員にとって、大きな安心感をもたらすものでした。こうした問いや対話、そして小さな挑戦を、日常の学びの中で数多く積み重ねていく取組が、愛総中の「チャレンジ100」です。


プログラムの後半では、Qaijffによる生演奏が行われました。
披露された1曲目は 「meaning of me」。この楽曲は、「自分は何のために生きているのか」という問いと向き合うことから始まる一曲であり、森氏にとっても長く大切に歌い続けてきた楽曲です。
人生の中で立ち止まり、自問自答する時間は、誰にでも訪れます。生徒たちがこれから出会うであろう迷いや葛藤と重なるように、会場には静かに耳を傾ける空気が広がっていました。「答えはすぐに見つからなくてもいい。問いを持ち続けることそのものが、前に進む力になる」——そんなメッセージが、言葉ではなく音楽として届けられた気持ちになりました。
続いて演奏された 「味方でいて」 も、このプログラムを象徴する一曲です。当日はパネラーの他にも、高校の教員や中学校準備員をはじめ、多くの大人がこの場に関わり、プログラムが形づくられていました。そこには、「一人で進む時間があっても、決して独りではない。人との関わりにより人は成長できる」という想いが込められており、周囲の大人も味方であるというメッセージを届けたいという願いがありました。
音楽を通して伝えられたのは、励ましや答えではなく、寄り添う姿勢でした。それは、愛総中が大切にしている「自律」と「自主」を支える、もう一つの大切な土台でもあります。
6 「自律」と「自主」:自分の人生を自分で決める力
3名のパネリストの言葉は、愛総中が目指す「自律(自ら考え、判断する)」と「自主(自分からすすんで行動する)」という教育目標を鮮やかに描き出していました。
佐藤氏が語った「自分との契約」は、困難な状況下でも外からの圧力ではなく、自らの内に定めた目標に基づいて判断を下す、究極の「自律」の姿勢です。また、内田氏が周囲の反対を恐れず、自らの意志で人生の舵を切った決断は、まさに「自主」の精神を象徴しています。
愛総中では、3年間で100のテーマを体験する「チャレンジ100」などの実体験を通じ、生徒たちが自ら「課題を発見」し、「検証」を繰り返すプロセスを重視します。パネリストたちが体現してきた「失敗を恐れず、その先のワクワクをイメージする」マインドセットは、本校の生徒たちが未知の領域に挑み続けるための、揺るぎない土台となるはずです。
7 「答えのない問い」に挑み、自律した学習者へ
森氏が語った「自分の『好き』という気持ちを見つめ直す」という視点は、本校の「知ることで世界の見え方が変わり、人生を豊かにする」という理念と深く重なります。
愛総中の学びは、単なる知識の習得に留まりません。「答えのない課題に取り組み、自分なりに考えをまとめ、発信する」ことや、「自分自身の『幸せのものさし』を創る」という考え方は、パネリストたちが大切にしてきた「自分が大事だと思えるものを見つける」という生き方と強く共鳴しています。
こうした多角的な視点を持ち合わせることこそが、本校の目指す「自律した学習者」の姿です。自分の「好き」を原動力に、自ら問いを立てて学び続ける態度は、予測困難な社会において自分の人生を自らの意志で決定していくための、一生ものの力となるでしょう。
8 未来のテクノロジストへ


プログラムの最後、佐藤氏は生徒たちへ次のようなエールを送りました。
「選択肢がいっぱいあるというのは、すごくいいこと。あらゆる可能性を自分で模索して、自分の信じる道を進んでもらいたい」
愛総中は、恵まれた設備環境を活用し、中学・高校の教員が協力して生徒一人ひとりの成長を支援します。星が丘のこの学び舎には、自らの「心のエンジン」を駆動させ、社会に新しい風を吹き込もうとする「自律した学習者」たちのための舞台が整っています。
愛総中では、こうした対話を日常の学びの中で積み重ねていきます。「来れば、来たくなる」。私たちは、自ら人生を選択し、未来を切り拓いていく皆さんを、心よりお待ちしています。
